信頼されたうそつき



いつも一緒に行動してる子がインフルエンザに罹ったらしく、今日から暫く一人で行動することになった。いつも二人で机を寄せて弁当を食べていたから弁当はもちろん一人、移動教室も一人。一緒に食べてくれと頼める友達はいるけど、それもどうかと思うし何だか情けないから止めた。あの子どうするんだろうと誰かしらが言ってそうな気がする。楽しそうに騒ぐ皆の声が、騒ぎながら私の机にぶつかっても謝りもしない男子が鬱陶しい。いつもならあと5分しかないと嘆く休み時間なのに、今はあと5分が異常な程長く感じる。そろそろ携帯を弄ることにも飽きて、人間観察とかしてみようと思ったけど、面白い人なんて誰一人いなかった。チャイムはまだ鳴らない。私だけがクラスに馴染めていないような気がして廊下の方を見ると隣のクラスの友達と目が合った。沢山の友達を引き連れたその子はふにゃりと笑ってゆるゆると手を振った。私も手を振り替えした。やっぱり面白くないやつばっかりだ。あー面白くない。一人だと何も面白くない。

時計を見る為再び携帯を開くと同時に私に影が掛かり、反射的に携帯を閉じて顔を上げた。黒い影は謙也だった。

「よ」
「よ〜」
「いつも一緒に居る奴は?」
「インフルエンザなんやって」
「うっわ、じゃあ暫く一人やん」
「うん」
「かわいそー」
「うるさーい」
「寂しいんやろ、俺一緒におったろか」

冷やかすように言うからイラっとして「別にいらん」と頭に向かってきた手を撥ね返すと「お前本間可愛ないな」と言われた。語尾にハートマークでも付けて寂しいから一緒に居てとでも言えば満足したんだろうか。それはそれで気持ち悪いと言われそうな気がする。

「じゃあ可愛い子ん所行ってきーや、そこらにいっぱい居るやん」
「うわ、お前本間可愛ないわ!」
「うるさいなあ、じゃあもう構わんといてよ!」

きつく言うと謙也は一気にシュンとして「ごめん」と言った後、トボトボと自分の席に戻っていった。

・・・やってしまった。正直寂しいとか図星だったし、可愛くないと言われたのも本当の事だから余計に腹が立って感情に任せてあんな風に怒鳴ってしまった。でもそんなものは言い訳にしか過ぎない。今思えばあれは謙也なりの優しさだったんだろう。誰も声をかけてくれなかった中謙也はああやって声をかけてくれたのに。どう考えても悪いのは私だった。謝らないといけない。でも謝るタイミングなんて分からない。許してもらえるかも分からない。
その事ばかりが頭の中でぐるぐる回って、次の授業は頭に入ってこなかった。謙也に目をやると一番前の席にも関わらず大げさに机に突っ伏していた。先生が起きなさいと注意をしても謙也が起きる事はなかった。それを見ると隣の席の白石くんが、はあと大きなため息を吐いて、何だか申し訳なくなった。




「なあなあ」
「え、あ、何」
「昼飯一緒に食おや」
「え、あ、うん」

昼休み謙也は普通に話しかけてきた。あんなにしゅんとしていたのに今はいつもと変わらない。まるでさっきのことが無いような態度だった。私がおどおどしているのも気にせず謙也は私の机に隣の子の机をくっ付けた。
「いつもオカンに弁当作ってもらってんの?」
「ううん、お母さん朝から仕事やから自分で作ってんねん」
「ふーん、めっちゃ上手いやん」
「いやいやそんな事無いで」
「謙也は?」
「俺?俺も基本オカンに作ってもらってるけど、オカン寝坊したりとか面倒や言われたときは購買とかコンビニやな」
「そうなんや、へえ」

謙也はそれから弁当を食べながらどうでもいい話をし続けた。女友達ともどうでもいい話ばかりしているけど男とするどうでもいい話は本当にどうでもいい。それでも先程の罪悪感からか私は必死に話を聞いたし、聞かれることにはきちんと返した。謙也とこんなに沢山話したのは初めてだった。前に隣の席になった時に少し喋るようになっただけで、よく考えたら私は謙也のアドレスすら知らない。謙也はそんな薄い関係の私に同情して話しかけてくれたのに、私は怒鳴ってしまった。謙也はそんなこと無かった事のように接してくれてるけど、やっぱり謝らないといけない。

「謙也、さっきごめん」
「ん?あー・・・死ぬほどへこんだわ」
「でも寝てたやん」
「ちゃうわ!へこんどってん」
「あー、そうやったん、ごめん」
「ええよもう」
「つい言ってもたけど本間にそう思ってるわけちゃうから」
「えー」
「本間やって、ごめんな?」
「いやでも俺も可愛ないとか言ってもーたしな」
「いーよ本間のことやし」
「ちゃうって、ちゃうねん」
「ええ?何があ」
「そんな風に思ってへん」
「いやいや、同情してくれたんやろ?」
「え・・・」
「え?違うん?」
「いや、・・・同情してもーたわあんな一人でぽつんと居んねんもん」
「気使ってもらってすいませんね」
「いつも一緒におる奴インフル治るまで一緒に弁当食おや」
「うん、ありがとう」

(いつも一緒におるやつおらんからチャンスやと思って話しかけただけやってんけど)




信頼されたうそつき


(2010/8/4)
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