白い海に背を向けて






もう付き合って6年たつ。あのころ中学3年生だった俺たちは成人して車も乗れるようになって、煙草も吸えるようになり、大人になった。あの頃大きくなったら、という夢も知らずの間に着々とかなえていた。
大学生になった頃は結婚してもいいとすら思っていた。というか、するものだと思っていた。でも最近はなんとなく振られる気もしていたし、自分の中でももう駄目なんだろうなと思っていた。お互い忙しくなって会える時間が少なくなってメールの回数も減って、昔みたいに手を繋ぐようなこともなくなっていた。会っても大学やバイトの話をする俺たちは昔からの友達のようになっていた。昔みたいに喧嘩もしなくなった分、不満も言わなくなった。誰よりも好きだけど何よりもお互いを後回しにしてしまう俺たちは別れるしかなかった。



「・・・6年も付き合ったのにな〜」
「本間な、絶対皆吃驚すんで」
「うん」
「案外あっさりしてるもんやなー、こういうのって」


別れるということが頭を過った時から何度も想像していた。まさかこんなにあっさりしてるものだとは思わなかった。俺も泣くとおもっていたし、人一倍涙もろいは俺よりたくさんなくものだと思っていた。そんな別れしか想像出来なかったけれど、実際少し変な空気のなかで苦笑いする程度ですんでいた。目の奥が少しチカチカしてる気がしていたけれど、涙はやっぱりでてこないし、喉の奥がカラカラな気もしたけど声は普通に出ている。



「私絶対なくもんやと思ってたし」
「いや、俺もやし」
「やんな、あー、寂しくなるなあ」
「本間や」
「友達でおってくれるやんな」
「当たり前や」



別にこれからだって会おうと思ったら会えるのに最後のような気がして彼女から目を離すことができなかった。何故か思い出すのは付き合い始めたころのばかりで、最近のことは思い出せない。



「俺な、結婚するもんやと思ってたわ」
「わたしもすると思ってた」
「こんなことってあるねんなあ」
「うん」


何も話すことはないのにつなぎとめようとしている自分がよく分からなかった。覚悟は出来ていたし、彼女が言い出さなかったら自分から言うつもりだったのに。今になって別れが惜しいのは未練なんだろうか。




白い海に背を向けて






(2010/5/31)

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