思ってる以上に静かに時は早く過ぎていて、確実に私達は昔より大人になっている。だから季節の代わり目は妙に切ない。
大人になりたくないわけじゃない。でもずっと今のままでいれたらいいとは思う。まわりが変わっていくのが怖い。きっと気づかない間に私も変わってしまっているのが怖い。
今を思い出して、懐かしいねなんていいたくない。思い出の場所、なんて作りたくない。
空気だって、環境だって、滝だって、私だって同じようで絶対に違う。どこが変わったなんて言えないけど、少しづつすべては変わっていってしまっている。
あの頃は楽しかった戻りたい、と切に願ったところであの頃を見る事なんて一生できない。
でもあの頃の私には、そんなこと全然気付かなくて来年も、その先も、そんなに変わらないものだと思っていた。未来が怖いなんて不安は一つも無かった。
好きって言ったら好きっていい返してくれる人がいる、それだけでいいと心底思っていた。
一年前のあたしに怖いものなんてなかったかもしれない。
「ごめん、別れてほしい」
うつむき加減に言った滝、背中に冷や汗を流している私、耳を塞ぎたくなるほどの蝉の声、妙に切なくさせるような水色の空に入道雲、校舎の裏の花壇。
記憶にある光景だった。記憶にある光景と今の気分ははまるで反対だけど。
何も返事を返さないで、滝に視線を向けた。反らすことはできなかった。滝は下を向いたっきりで私の顔を見ない。
あたしが滝を攻めてるみたいになっている。可哀想なのはどっちなのか分からない。
やっぱり好きな人の困っているところなんてできれば見たくないと改めて思った。
「…ごめん」
これで滝のごめんは5回目だった。謝ることしかできない滝はとても無力で情けない男に見える。
滝は何もわかっていない。私は別に謝って欲しいわけじゃない。
「…暑いね」
「…、」
「好きな人でもできた?」
余裕をもったように話す。なるべくいつも通りに。心がければ心がけるほどボロが出てしまうような気がした。素直になれない。本当は泣いて別れたくないと言ってしまいたかった。でもそんな惨めなところ絶対に見せたくない。素直になんてなりたくない。
「や、そうじゃないんだ」
「じゃあ、何で?」
「なんか前みたいに、なんか」
滝が言葉を濁す。前みたいに好きになれなくなった?私が変わってしまったから滝の気持ちは離れてしまったのか、滝が変わってしまったのか。私の気持ちはなにも変わってないはずなのに。涙で視界が揺らいで入道雲がぼんやり輪郭をなくす。でも泣けない。今泣いたら、あたしだけが好きみたいでみっともない。汗を拭うふりをして涙を拭いた。
一年前告白されたときの、あの時のあたしなら、素直に泣いて別れたくないといえただろうか。
「いいよ、別れよ」
「ごめんね」
最後まで好きな人の前ではいい人でいたい。こんな筈じゃ無かったのに、あまりにも惨めすぎる。
いつの間に、あたしはこんなに自分を出せなくなっていて、滝はいつの間にあたしのことを好きじゃなくなったんだろう。青い空も、少し日に焼けた滝も、立体的な入道雲も一緒なのに。
願わくばもう一度甘い恋
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