私はごく普通の人間だ。私ほど普通という言葉が似合う人を探すのは中々難易度の高いことだと思う。ルックスも知能も性格も特別良くも悪くもない。無難という言葉がとてもよく似合う。私の普通ではない所は仁王雅治という特別な彼氏が居ることだけだった。仁王の存在は私とは対称的で、皆が彼を気にしていて、好かれている。でも彼がそれを自己顕示することは決してない。
彼のそういう所が好きで、憧れでもあった。

「仁王みたいになりたい」
「何じゃそれ」
「はっきり言い表せれないけど」

今まで他人から羨ましがられることなんて何一つ無かったというのに、仁王と付き合い始めてから沢山の人が私を羨ましがった。その皆の目は私の後ろの仁王に向いていた。当の本人は皆の視線にも気付かない振りで気にしていなかった。
誰からも好かれたいなんて思っていないけれど、そういう対象になる仁王が羨ましかった。

「仁王は私の憧れだから」
「憧れって。付き合っとるのに憧れも何もないじゃろ」
「あるよ」
「やっぱ変わった奴やのう」

仁王は私の事を変わってるという。そしてそんな変わっているところが好きだという。こんなに普通な私を変わってると言うのは仁王が初めてだった。何が変わっているというんだろう。人より劣っている事はあっても、長けてるところがなくて、羨ましがられる事もなくて、居ても居なくても変わらない私が。

「いやいや、私は普通だよ」
「ありえん」

在りえないと思いながら否定しても、変わってると言われるのは内心嬉しかった。馬鹿みたいだけど、私すら認められない私自身を仁王だけが認めてくれているような気がした。

「だって、私、他の人と比べて特にいい所なんて無いし」
「他の奴と比べたって仕方ないじゃろ」

そんな風にいえる仁王が羨ましかった。憧れだった。人を羨まない仁王が。人に好かれている仁王が。人と自分を比べない仁王が。私に無いものを全部彼は持っていた。私は仁王になりたかった。


幸福のあいだ



(2010/8/17)


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