ふたり歩きの孤独たち





友人に仁王は性格が悪いからやめといた方がいいよ、といわれた。そんな風に人の彼氏を彼女に悪く言うお前の方がよっぽど性格悪いし根性腐ってるんじゃないのと言ってしまいそうな自分を殺して「え?そうなの?」と笑った。馬鹿らしい。帰って絶対に仁王に話そうと思った。一番性格が悪いのは仁王でもなく友達でもなく間違いなく私だ。

「今日ね、仁王は性格が悪いからやめとけって言われたよ」
「なんじゃ、俺はそんな風に言われとるんか」
「いいじゃん、私も性格悪いよ」
「そんなことなか、自分のこと悪くいいなさんな」

仁王は知らない奴に馬鹿にされようが愚弄されようがそんな事に対して一切腹を立てなかった。知らない奴や興味のない奴にになんて思われようがどうでもいい、と前に言っていた。私は仁王のそういう所が好きだ。仁王がそういう性格でなければもしかすると仁王のことを好きになっていなかったかもしれない。

「お前さん付き合いやすいのう」
「え、そう?今まで何考えてるのか分からないとか付き合いにくいとか言われてたよ」
「そんなことなか」

仁王は大きな手で私の頭を撫でた。仁王はよく私の頭を撫でる。そしてその後いつも綺麗に笑うけど、綺麗すぎて何だかとても胡散臭い。それでも私は素直に嬉しい。私以外にこんな風に笑うなんて絶対嫌だ。だって今の自分にはもう仁王しかないような気がする。友達だって嫌いではないけれど必要性は全くと言っていい程感じていない。別に仁王以外はあっても無くてもどっちでもいい。

「どこが付き合いやすい?」
「んーどうでもよさそうなとこ」
「どうでもよくないよ?」
「おー、でもどうでもよさそうじゃ」

確かに仁王以外はどうでもいい。でも仁王だけはどうでもよくなかった。仁王が他の女と喋っているのも、私の知らない友達と仲良くしているのも、他の女の子の携帯番号を知っているのも、仁王の事を好きな女の子が居る事も、仁王の視界に私より可愛い子が映るのも嫌だ。私の全てが仁王であるように私は仁王の全てでいたい。でも私の事なんてどうでもいいと思っていそうな気がする。ふらっと新しい私より可愛い彼女を作ってきて別れを告げられそうな気がする。

「そういえば、その子らとプリクラ撮ったよ、見る?」
「おー見る見る」
「はい」

皆同じような化粧をして、バサバサのつけまつげを付けて、髪型は自分を主張するように大きな巻き髪を皆がしていた。私もその中の一人だ。仁王が凝視しているプリクラの中の私は機械で必要以上に瞳が大きくされていて私じゃない誰かみたいだった。

「この子可愛い」
「これ?」
「うん」
「この子このプリクラと全然顔違うよ、これこそプリクラマジック」
「ほーう、きょうびのプリクラは怖いのう」
「ほんとに、私も目大きいし肌白すぎるし誰か分からないね」
「プリクラより実物のが可愛いぜよ」
「嘘、それは無いわー」

可愛いなんて言われ慣れてなくて嘘と思いながらも顔が一気に赤くなるのが分かった。林檎のように赤くなった私を見て、仁王が笑う。

仁王が可愛いと言った子は昔、仁王の事が好きな子だった。最近友達に紹介してもらった他校の男と付き合い始め、本人は幸せそうだったけど周りは妥協だ、と影で小馬鹿にしていた。まあ正直仁王と比べたらいくらか下な彼氏だった。今も仁王の事が好きだったらどうなっていたんだろう。
仁王とは私が付き合っているのに、接点すらない仁王とその子に焦りを感じていた。

「こいつブス」
「あ、この子仁王の事性格悪いからって言ってた子」
「コイツか、死ねばええのに」
「あはは、ほんと」

仁王は本気じゃないだろうけど、私は本気で死ねばいいと思った。仁王の事を悪く言ったこと、私に知ったように仁王の事を話した事に今になって腹が立ってきて一発ぐらい殴っておけば良かったと後悔した。仁王の事を知った風に言っていたけれど、彼女は仁王の何を知っているというのだろう。仁王の悪い噂を彼女が沢山知っていたとしてもそれが何になるのだろう。私は仁王と触れ合い、誰よりも長い時間を一緒に過ごし、噂ではない仁王の事を沢山知っている。
仁王は暫くプリクラを見てから何も言わずプリクラを切って半分自分の財布に直し、片割れを私に返した。

「お前さん、俺に似とるな」
「え」
「そっくりじゃ」

いつも綺麗に笑う仁王が、少し悲しそうに笑った。突拍子もなく仁王が言った言葉の意味は全く理解出来なかった。けれどとりあえず適当に笑って、そうだね、と返事を返した。仁王はそれに対して返事はせず、ただ私を力強く抱きしめた。私も曖昧に仁王の背中に手を回しながら私と仁王の似てる所を考えた。
やっぱり私には仁王と私の似てる所なんて見つけられなかったけれど「本当そっくりだね」と言った。もう嘘吐きでも何でもいい。




ふたり歩きの孤独たち




(2010/3/27)
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