私の事を好きだという割に、この人は私が居なくなったとしても一人で生きていけるんだろうなあ。

侑士が出来合いで作ってくれた晩御飯を食べながら思った。仕事の帰りが遅い私の為に侑士がてきとうに作った質素な晩御飯は私が料理本を引っ張り出してきて作る料理よりも断然美味しかった。

「うまい?」
「うん、美味しい」
「ほんなら良かった」
「ありがと」

もう一度「うん。ホントにおいしい」と言うと侑士は換気扇の下に置いた安い背もたれの無い椅子に腰を掛け、煙草を吹かしながら口元を緩めた。

同棲をし始めて1年。
同棲しようと言い出したのは侑士だった。迷う理由など無く、言われて直ぐに家を借りた。2DK、築10年のアパートは私からすれば充分なお城だった。

「侑士さあ」
「んー?」
「ずっと前から思ってたんだけど、なんで同棲しようって思ったの」
「ん?好きやからに決まってるやん」
「嘘。侑士はそんなタイプじゃない」

形から入るタイプでも無く、勢いで物事を進めるタイプでもない侑士が何故同棲しようと言い出したのかは未だに分からない。私の事が好きだからなんて単純な理由で付き合って一年も立たない女と同棲を始めるような人間ではない。侑士はもっと賢くて、慎重な人間だ。

「でもの方がようオッケーしたなあ」

私が同棲を承諾した理由。それは知る為だった。侑士が何時に起きて何処に行くのか。誰と遊んで何処で何をしているのか。どんな生活をして、どんな一日を送っているのか。侑士の全てが知りたかった。
同棲を始めてから思っていた通り全てを知る事が出来た。今、私は誰よりも侑士の事を熟知している。それなのに足りない。毎日帰ってくる所は私の所なのに何でも沢山話してくれるのにこんなにも愛されているのに満たされない。どうすれば満たされるのかなんて自分でも分からなかった。

「・・・本当に」
「後悔してるん?」

全く後悔していないと言えば嘘になる。それでも侑士を手放すことは出来ない。好きだと口にする侑士より、言われている私の方が依存しているに違いない。言われる事が当たり前になっている私の方が侑士が居なくなると生きていけない。きっと侑士は生きていける。私なんか居なくても。

「ううん。だって私が居ないと、侑士死んじゃいそう」
「何やそれ」

私は侑士がいないときっと死んでしまう。どうしようもない位好き。侑士よりも私の方が、絶対。







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