独白






「ごめん」

暫くの沈黙を彼女が破った。謝られるような事は何もされていないし、謝るようなことを彼女は何もしていない。沈黙の間、俺はベッドからぼんやりと外を眺めていて彼女は俯いていた。それだけだった。それなのに彼女は申し訳なさそうに俯いて顔を上げない。

「何が?」
「え、あ・・・何となく」
「あはは、なにそれ」
「・・・いや、なんでもない」
「別に俺怒ってないし機嫌悪くないよ」
「あ、うん。そっか」

彼女は恐ろしい程俺に気を使っている。いつも俺を否定しないし、俺が怒るような事は何もしない。だから学校の話も、友達の話も、部活の話も、俺が居ない所で起こっている彼女に関する話を何もしない。話せば俺が気分を害するからだ。
俺は彼女に固執しすぎていた。彼女もきっとそれに気付いているから俺に何も話さない。だから俺はもう半年付き合っている彼女の事を何一つ知らない。
誰かに隣に居てほしかった。誰でも良かったのかもしれない。何かに固執して安心したかった。何でもいいから絶対が欲しかった。

「謝るのは俺のほうだよ」
「え、ない。精市が謝ることなんて」

ぎゅっと俺の手を掴んで安心させるように上手く笑った。そんな事出来る訳が無いけれどこの笑い方を見る度に何故だか思いきり彼女を突き放してやりたくなる。これが正解だとでも思っているのかと、大声を出して怒鳴りたくなる。
違った。固執しても安心なんて少しも出来なかった。結局絶対的なのは俺の気持ちだけだ。俺が沈みすぎたせいで、彼女は浮いてしまった。一番肝心な筈だった彼女の気持ちは俺が無理やり縛り付けているだけだ。

「ほら、こうやって毎日気使ってお見舞いにも来てくれてるしさ」
「ううん、私好きでやってるし・・・」
「ありがとう」

俺のありがとうも、彼女の好きでやってるも嘘だった。
彼女はもう只の情で俺と付き合っているのかもしれない。若しくは俺を恐れているのかもしれない。それでも彼女は俺を見捨てない。
誰から見ても俺はどうしようもない程に最低で、情けない。でも今更彼女をどうでもいい存在に戻す事なんて出来る訳がない。こんなに固執してしまった今、彼女を手放すのは自分の存在意義を手放すのと同じだ。

「じゃあ、そろそろ帰ろうかな・・・、また明日来るね」
「分かった、ありがとう」
「お大事に、じゃあまたね」
「うん、気をつけて」

多分俺は固執するんじゃなくて、されたかった。

独白
(そんなつもりじゃなかったと俺の大嫌いな言い訳が頭を過る)





(2010/6/19) inserted by FC2 system