褪せない



居なくなってから有り難味が分かるとか言うけど俺には全く分からんかった。が消えてしまっても俺は何も変わらんかった。が居らんくなった今も俺は普通に友達や先輩らとなんら変わりない生活を送っていて、しっかり生きている。

「もうすぐ一年やな」
「何がッスか」
「お前最低やな」
「あー、そうです。多分」
「えらい他人事やな」

他人事やった。彼女が死んでも少しも涙なんか出んかった。別に付き合う前に戻っただけで、俺の何って狂う事は無かった。死んでから新しい彼女は一回も出来てへんけどそれは別にが死んだ事とは関係が無いような気がした。

「もうちょっと素直ならなあかんで」
「これ以上素直になれんっつーくらい素直です」
「何処がや」

部長は俺を見て引きつった笑い方をしていた。

「でもめっちゃ仲良かったやん」
「ああ、はい」
「だって財前プリクラ携帯に貼ってへんかった?」
「あー・・・ああ、あいつが勝手にちょけて貼ったんすわ」

が勝手にふざけて俺の携帯に貼ったプリクラはいつの間にか剥がれてしまっていた。いつ剥がれたんかも俺は分からんかった。もう忘れてしまった。全部アイツのことは忘れた。

「もうええですか、思い出したくないんすわ」

「もしどっちかが死んだらどうする?」って昔に冗談でアイツが言うた時は、口では「死んでもうたらどうにもならんやろ」とか言うてたけど、こんな普通に生活が出来るとは思ってへんかった。阿呆みたいやけど俺も後追いみたいな感じで死ぬんちゃうかって思ってた。めっちゃ好きやったしアイツのことばっかり考えてたしこんなに好きになれる人一生居らんかもしれんなって思ってた。今思ったらホンマに阿呆やけど、それぐらいの気持ちはあった筈やのに、アイツが居らんくても俺の毎日は確実に進んでいく。

「財前、」

誰も今までアイツの事には触れんかった。本間に無かった事みたいになってて、でも皆が俺に気使ってんのは死ぬほど伝わって来て、それが分かれば分かるほど俺は忘れたみたいに出来た。
普通に生活が出来へんくなってしまえば良かった。俺も死んでしまえば良かった。俺はあんなに好きやった彼女が、が死んだのに泣きも出来へん最低な男やった。アイツちゃうくて俺が死ねば良かった。

「やって、俺何も変わってないでしょ、アイツおらんくても」

目の前が波を打ったみたいに歪んだ。




(2011/2/13) inserted by FC2 system