就活の帰り道俺達は暑苦しいリクルートスーツを身に纏い、疲れきった足で帰路についていた。湿った風が俺と彼女の頬を撫でる。隣を歩く彼女の黒いリクルートスーツは暗闇に同化して夜の一部になっていた。


「疲れたね」
「うん。疲れた」


彼女の笑い方はぎこちなかった。俺もいつものように上手くは笑えていなかっただろう。慣れない格好と、就活という重荷にやられてお互い気が滅入っていた。


「今日のところ微妙だったな、精市はどうだった」
「俺も微妙だったよ」


彼女はだよねえと大きな溜息を吐き出し、一つに綺麗に束ねられていた髪を解いた。就活の為に不自然な程に黒く染められた髪は彼女によく似合っている。温い風が吹いて、僅かに残るシャンプーの匂いが俺の鼻を掠めた。彼女はまた大きなため息を吐いた。


「溜息は、ストレスの緩和になるらしいよ」
「えっそうなの」
「うん。ついたら幸せが逃げるとかいうけどね」
「あるか分からない幸せを逃がすとかより今確実にあるストレスを緩和してくれる方がよっぽどいいや」
「確かに」


通りかかった公園が騒がしくてそちらに目を向けると、子供達が花火をしていた。夜に似合わない子供とはしゃぎ声と人工的な色を作りだす花火が眩しく感じた。花火なんていつからしていないだろう。

「花火かあ」


彼女も羨ましそうに花火に視線を注いでいた。瞳の中で僅かにパチパチと火花が光っている。あまりにも羨ましそうに言うから、するかい。と声をかけようかと思ったけどスーツに花火は似合わないし疲れて今は花火なんて楽しめないだろうと思ってやめた。


「何が楽しかったんだろ」
「ん?」
「私はもう花火を素直に楽しめない年になってしまったな」
「線香花火とか、俺好きだけどな」
「うん、まあね。でも昔はあんな風に私も花火が楽しかったのに、多分今って花火をしてる雰囲気が楽しいだけだから」
「なるほどね」
「もっと素直に何でも楽しめたらいいのに」

彼女が疲れた顔で少し悲しそうに笑った。ああ、本当に気が滅入ってるんだなあと思いながらああ、うん。と同意も反意もしない曖昧な返事をした。





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