友達らの大きな笑い声が長く続く廊下に響き渡った。私が昨日転んだ話を未だに引きずってるようだ。転んだ時は面白かったから別に笑ってくれても良かったけど、さすがに一日たった今日はもう面白いとは思えなかった。それでも笑った。昨日転んだ事を思い出すと擦り剥いた膝がジンジンと熱を持った。またドクドクと血が出ているような気がする。痛い。 「え、昨日なんでこけたの〜?」 昨日転んだ理由。憧れの人である跡部景吾を遠目に見ていたら前の段差に気付かなくて転んだ。なんて馬鹿らしい理由だろう。 「あぁ、何かぼーっとしてたんだよね、はは」 適当に吐いた嘘に彼女らは不愉快になるような甲高い声でまた笑った。別に何も面白い事なんて言ってないのに。必要以上に大きな笑い方が癇に障る。まるで馬鹿に見られたいような笑い方だ。私も同じ笑い方をした。 「もう、アンタは本当どんくさいんだから気ーつけなよ?」 うん、と短く返事をすると彼女らはまた笑い出した。さすがにもう笑えないと思い一番後ろで皆の足だけを見て歩いた。皆の歩調がばらばらで意識すると合わせにくい。ずうっと足を見ながら歩いているとまた躓きそうになった。それを隠してまた普通に歩き出す。その時いい匂いが鼻を掠めた。此処にいる誰のものでもない香水の匂い。頭を上げようとするとポンと手が乗り、私の頭は意思とは反対に数センチほど沈んだ。 「気つけろよ、バーカ」 ぱっと手が退いて振り返ると跡部だった。昨日転んだ所をどうも見られたらしい。口の端を上げて笑う跡部を見ると恥ずかしさと照れで一気に全身がどっと熱くなった。その私を見て跡部はまた同じ笑い方をして歩いていってしまった。 今更「えっ」と情けない声を上げるとそれを合図と捉えた様に皆が一斉に馬鹿みたいに騒ぎ出した。 「え、今跡部に何か言われてたよね?」 「えー!何言われてたの!?」 「いいないいな!」 「何てー?」 「てか顔真っ赤だし!」 ベタベタと皆が私を触る。跡部に聞かれると恥ずかしいなあと思い振り返ると跡部はもう居なかった。膝がジンジンと痛む中火照る頬を押さえながら私は、何言ってたか分からなかったと皆に嘘を吐いた。跡部の香水の匂いが未だに鼻に纏わりついて離れない。 |