「昨日あなた違算でてたわよ」
「はあ」
「その時は店長がだしてくれたけどそういうのは普通自分が出すもんなのよ?まあ私はいいんだけどさあ」

よくないから言ってんだろくそばばあと思いながら「すいませんでした」と少し頭を下げた。それを見るとブチブチ未だに私に対する文句を言いながら店の局的存在のパートは出て行った。死ねば良いのにと思った。

このやり取り傍観していた仁王さんにそっと目をやった。彼は流し台に腰掛けて、回っていない換気扇の下で不味そうに煙草を吸っていた。彼が面倒そうに長い息を吐くと私と彼の間に白い線が上がる。煙がこっちまでやってきて少しだけ目に沁みた。吐き終わると同時にわざとらしく私と目を合わせ口の端を吊り上げ笑った。癇に障るいやな笑い方だった。

「嫌われとるのう」
「はい、仁王さんは好かれてますよね」
「ああ、そうじゃのう、女にはきついみたいじゃ」
「別にあんな人に好かれたくないですけどね」
「間違いないわな」
「はい」

一瞬会話が止まった。お互い携帯を弄って気まずい空気をやり過ごしているとパタンと勢いよく携帯を閉じて仁王さんがまた口を開いた。

「あーあと5分で休憩おわりじゃ」
「私はあと35分ですけど」
「ああ、そうやったのう」

仁王さんが灰皿に煙草を押し付けた。煙草はぐしゃぐしゃになって中から葉っぱが出てきた。それを見ると気分が悪くなった。何の根拠もないけど何となく私みたいだと思った。

「あー辞めたい帰りたい」
「本間にな」
「うるさく言われないからいいじゃないですか」
「ばばあに好かれてなーにが羨ましいんじゃ」
「まあ、でも私よりはましですよ」
「あー、まあな」

彼はよいしょと流し台から腰をあげると、ロッカーを勢いよく開けた。すっからかんと言ってもいい程何も入っていないロッカーから何かを取り出して「これやるわ、元気だしんしゃい」と彼は私に隠すようにそれを私に握らせた。「はあ、ありがとうございます」と思ってもいない返事をして彼が出て行った後、ゆっくり手を開くと近所のカラオケで貰える薄荷の飴だった。要らなすぎて仁王さんがくれた少し溶けている飴は見事ゴミ箱いきになった。

あー消えたい。







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