「ねえ、ブン太」
「ん?」

最近になって気付いた事がある。彼が私に笑いかける回数が少し減った事、返事が少し適当になった事、もう私の事を好きではないという事。彼の態度はどれだって私に興味がないことを示している。彼はもうほんの少しも私のことを愛してはくれていないのだろう。 それに気付けば気付くほど私はもっとブン太の事を好きになっていた。

「あのね、昨日久しぶりに柳くんと会ったよ」
「へ〜、マジか」
「全然変わってなかったな、柳くん」
「だろーな」

どんな話をすれば私の話に耳を傾けてくれるのか。どれだけ頭を使って考えても答えは出ないし必死になっても気をひくことなんて何一つ出来なくてただ空回りするばかりだった。今だって彼の気持ちは私を置いてけぼりにする。それを引き留める術を知らない私は、こんなに側にいたって少しでも戻ってくるように祈ることしかできない。きっと横でじっとしているだけでも、少しずつ離れていって、いずれ私の事なんて忘れてしまうのだろう。

「幸村くんとか、元気かな」
「あー、元気」
「今でも会ってるの?」
「たまにな」

携帯を弄りながらブン太が適当に返事を返す。この後はきっと一人でゲームをして、そして寝るだけ。帰りだって最近は送ってくれない。こんな毎日これっぽっちも楽しくない。付き合ってる意味がない、別れた方がいい、次がある。周りの人間は口を合わせてそういうけれど、そんなに簡単に別れを選べる程どうでもいい存在にできる筈が無かった。

「…なんか、しんどいな」
「大丈夫かよ」
「わかんない」
「帰ったほうがいんじゃね?」

気持ちがしんどい。大丈夫じゃない。帰りたくない。本当は口に出したい言葉が私の中でだけで全部消えていく。もし、私が本当に風邪だったとして、心配してくれる?私が今の気持ちを言えば理解しようとしてくれる?私が泣けば? どれだって私がして欲しい様に彼がしてくれる自信はもう何処にも無かった。いつだって嫌われないように接してきたつもりだったのに、何故だか心あたりも後悔も沢山あった。

「そうだね、帰る」
「おー、気つけてな」
「うん、またね」

私の事が嫌いなら、もう一緒に居てくれなくていい。捨ててくれたっていい。忘れてくれてもいい。 捨てられたら私はきっと沢山悲しむし、忘れられたらきっと私は沢山泣くけれど、それでも居てくれなくていい。きっと沢山悲しんでも、沢山泣いても、それをブン太が慰めてくれなくても、私はきっと生きていけてしまうから。ただ私から別れを口にすることは事は出来そうにないから、そっと突き放してほしい。




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