「んでなんかその子俺の事好きみたいだしな」
「えー、可愛いの?」
「うん」
「写メないの」
「あ、ある」
「うーん、えー、言うほど?」
「あーまあ女からは好かれない感じ?かもな」
「ふーん」

事の発端はコレだった。ブン太にいい感じの女が出来た事だった。

ブン太の事は別に男として見ていない。モテるし評判も良いみたいだけど私の好みではないし、付き合いたいとも思わない。だから一緒に風呂に入れといわれたら入れるし、ブン太が友達に女を紹介してもらっていても何とも思わない。
ブン太は私にとって他人とは比べられない程特別な存在だった。彼氏、友達、親友。そんな廉いカテゴリに分けることはできない程には特別な存在だった。

「ってことで明日遊んでくる」
「え、明日かりた映画みよつってなかった?」
「ああー、忘れてた、マジでごめん」
「返却日明日だし」
「じゃあ一人で見てくれていいぜ、ごめんな」

今までは私が一番優先だった。暇さえあればする事がなくても一緒に居て、暇が無くても一緒に居た。私の遊び相手はほぼブン太だったし、ブン太の遊び相手もほぼ私だった。相談相手も八つ当たりをするのも全部がブン太だったし私だった。知らない事なんてお互い無かった。
それが顔しか知らない女の介入によって崩れるなんて考えられなかったし許されなかった。

「なにそれ」
とはいつでも会えんじゃん」
「まあ・・・そうだけど」

その言葉に悪い気はしなかったし信じていた。私たちはいつでも会える。お互いが居ないと駄目なんだと。女ひとりのせいで今までの関係が壊れるなんて有り得ない、と。




暫くしてブン太はその女と付き合う事になった。嫌だった。それでも嫌だとはいえなかった。こんなにずっと一緒に居ても、私がそんなことを言う権利はどこを探しても無かった。

それでも私たちは暇があれば会っていた。いつもみたいに漫画を読んだり、テレビをみたり、一人でも出来る事ばかりをして時間を潰した。

「アイツが」
「彼女?」
「うん、俺とお前が会うの嫌っつってるんだけど」
「何それ」
「知らねー、昨日言われた」
「頭おかしいんじゃん、自分後から入ってきたくせに」
「うん、でも泣くんだよ、アイツ」

困った顔をするブン太を見て私だって泣いてしまいたかった。こんなにも簡単に優先順位って変わるものだったんだろうか。泣けば私の意見が通るんだろうか。こんなにも簡単に特別って特別じゃなくなるものだったんだろうか。ブン太にとって私が特別だったというのは只の私の思い違いだったんだろうか。

「私、すぐに泣く女って大っ嫌い」

それから私は焦るようにすぐ彼氏を作った。もうブン太の事を考えたくないから。私だって彼氏を作ればお互い様で気にならないだろうと思った。
私は甘かった。付き合ってから彼氏の事はそれなりに好きになれたし、これからもうまくやっていける気がした。それでも彼氏よりもただの友達というカテゴリにしか分け様の無いブン太の方がよっぽど特別だった。
だから私から誘うことは無かったけれど、ブン太の暇があれば会っていた。考えたくないと思いながらも彼氏の約束を断って私はブン太と会って、何よりもブン太を優先していた。

「彼氏どんな奴?」
「ブン太とは全然違うタイプだよ」
「ふーん、そうか」
「優しいしね。私のこと大事にしてくれる人」

前に彼氏と撮ったプリクラを見せた。見せたプリクラ以外にも数枚あったけれど一番彼氏の映りのいいプリクラを見せた。

「へえ・・」
「えーそれだけ?」
「あー、いいんじゃん」
「うん、いいの」

ブン太よりもタイプで、ブン太よりも性格が良くて、ブン太より賢くて、ブン太よりも私のことを優先にしてくれる私の彼氏。ブン太の言う通り良い。私の選択は間違っていない。間違っていないのに後悔ばかりが残る。ブン太の微妙な反応が全てを物語っている。違う、と。私はどうすればよかったんだろう。どうすればブン太は私を、ずっと優先してくれていたんだろう。私は今までブン太を一番優先してきた。それ以上に何をすれば良かったんだろう。

「長続きしそうだし」
「は、わかんねーな」
「続かせるよ、私のこと、誰よりも優先してくれるし」
「はは・・ノロケかよ」

ブン太が温かい目で良いと言えば言う程罪悪感にかられた。ブン太が悪いのに。ブン太が先に仕掛けたことであって私は被害者であって、悪いことなんてなにひとつないのに。ブン太がいつものように笑わないから私は心臓が押しつぶされているような感覚がした。

ブン太が否定して一言別れろとはっきり言ってくれれば私は直ぐにでも別れるのに。

「何でお前が泣くんだよ」
「ごめん」
「意味わかんねーよ」
「・・・」
「なあ、なんか言えって」
「・・・これって私のせい?」
「違う」
「じゃあ誰のせいなの」
「わかんねーよ、俺も」
「・・もうブン太に会いたくない。会わない」
「マジでいってんの?」
「私たち会わないほうがもういい、きっと」
「・・・そうかもしんねーな」

私達はきっと近すぎたから、離れた。彼氏でもないブン太に嫉妬される理由も、嫉妬する理由も見当たらなかったから。
離れるしかなかった。




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